Going Back Home

近頃は、ウィルコ・ジョンソンとロジャー・ダルトリーの“Going Back Home”を何度も聴いています。
一聴して真っ先に感じたのは、アイルランドの若手バンド、ストライプスに似た触感であることです。
ウィルコ・ジョンソンは、'70年代のパブ・ロックのバンドであるドクター・フィールグットのギタリストで、ロジャー・ダルトリーは、'60年代から活躍するThe Whoのボーカリストです。
ウィルコ・ジョンソンとロジャー・ダルトリーのようなベテラン達と駆け出しのバンドを比較するのは、申し訳ないのですが、元々ロックは若者ための若者の音楽なので、“若返ったベテラン達”と言うのは最大の賛辞なのかも知れません。

特に私はThe Whoのマニアで、近頃もっぱら“ロジャー派”になってきているので嬉しい限りです。
ドクター・フィールグットも好きなバンドなのですが、以下は、あくまでThe Whoのマニアの私の視点で書き進めて行きます。

ロジャー・ダルトリーは、近年珍しいソングライティングしないロック・ボーカリストで、The Whoの活動をしている時は良いのですが、それ故にソロ活動では、プロデューサーやソングライターのクオリティーに大きく左右されてしまいます。
なので、ロジャーのソロ活動の曲を聴くと、なぜか“野暮ったいロック・スター”みたいに聴こえてしまいます。
それを分かっているのか、ロジャーはソロツアーを敢行する時は、The Whoのソングライターであるピート・タウンゼントの曲だけをチョイスしたツアーをしたり、近年はThe Whoの名作である“トミー”の再演をソロでやったりしています。

そんなロジャーですが、今回はウィルコ・ジョンソンと連名でタッグを組んだのは正解だったと思います。
曲はドクター・フィールグットでウィルコがソングライティングした曲やソロの曲で構成され、一曲だけボブ・ディランのカヴァーが含まれています。
ロジャーのボーカルとウィルコのギターの他に、何とキーボードは元スタイル・カウンシルのミック・タルボットという凄い面子が揃っています。
プロデューサーはマニック・ストリート・プリーチャーズの多くのアルバムを手がけたデイヴ・エリンガです。

でも“Going Back Home”は、そういった素晴しい人選だったからではなく、ここまで初々しいロックを聴かせてくれるのは、ロジャーとウィルコの純粋なロック魂だからこそ出来たのでしょう。
The Whoの曲で、ロジャーのボーカルを連日のように聴いている私の感覚では、ボーカルはThe Whoのファーストに近いスタイルで歌っているように感じられます。

ロジャーは熱い情熱を持つ男のように思うのですが、この“Going Back Home”のレコーディングに関するエピソードも、またロジャーらしいのです。
ロジャーとウィルコが知り合った際に、社交辞令のように『いつか2人でレコーディングを…』という話をしていたとのことですが、ウィルコが末期の膵臓癌であることが2013年に判明すると、すぐさまロジャーはスタジオを押さえて、たった1週間でレコーディングされたとのことです。
まさに『男の約束』とは、こういったことを指すのではないでしょうか?

そして、あまり公にされてはないようですが、“Going Back Home”のロジャーの分の印税に関しては、10代の癌患者の支援団体であるティーン・キャンサー・チャリティに寄付されるとのことです。
ロジャーは、本当にどこまで熱い男なのでしょうか!