This Year's Model

パンクという音楽ジャンルが登場した'70年代後半のUKからは、様々な才能あるミュージシャンを輩出しました。
しかし、このような表現の仕方が、もはやパンク・ロックの、“スター性の否定”、“誰でもすぐ真似出来る”という精神からかけ離れていますが…。
でも、本当にパンクらしい音を出したバンドは、セックス・ピストルズ、クラッシュ、ダムドで、後は本当に彼らを真似てしまったバンドや、少しパンクとは音楽性が異なったバンドであると私は思っています。

この時代はインターネットもなかったので、日本人が当時の生々しい情報を掴むのは、現地に乗り込んだ音楽ライターの情報や、英国から輸入されて来た英字の音楽誌を読むしかなかったなかったのでしょう。
なので、パンクと定義付けられたバンドが余りに多過ぎて、結果的に音楽性も幅広くなり過ぎて収集が付かなくなった感があります。
ザ・ジャムはモータウンやザ・フーやキンクスからインスパイアされたモッズ系の音楽を奏でるバンドだったのに、パンクとして紹介されました。
ザ・ポリスは初期はパンクっぽい曲を演奏していましたが、実はギターのアンディ・サマーズはパンクの世代より一回り以上年上のベテランで、ベースのスティングはジャズで鍛えられた技量の持ち主で、“パンクの振りをしたバンド”でした。
そして、エルビス・コステロは類い稀なポップ・ソングのソングライティング能力を持つミュージシャンでした。

当時初々しかった彼らも、セックス・ピストルズのジョン・ライドンは現在も幅広い才能を発揮しています。
ザ・ジャムのポール・ウェラーは、現在も若いUKのバンドからリスペクトされる大御所になっています。
ザ・ポリスのスティングは、誰でも知っている世界的大スターになっています。
そして、エルビス・コステロはロックという枠に収まらず現代のバート・バカラックばりの壮大なオーケストレーションを展開する音楽活動にシフトし、後年発表した“She”は日本の結婚式の披露宴でも流れる定番の曲となっています。

そんなエルヴィス・コステロが最近、私が好きなミュージシャンの1人となっています。
やはり彼のバンド、ジ・アトラクションズとレコーディングしたアルバムがロック色が濃くて、私は好きです。
写真の“This Year's Model”はエルヴィス・コステロのセカンド・アルバムですが、ジ・アトラクションズレコーディングした最初のアルバムです。

実は私、以前はエルヴィス・コステロは、ちょっぴり好きというレベルの方だったのです。
正直、もっとガツンとヘビーな音を好んだからです。
眼鏡をかけたバディ・ホリー風のルックスも好きではありませんでした。
しかし年齢を重ねていくうちに、そのメロディーと歌声が、じわじわと心に響いていったのです。
眼鏡をかけたルックスも、バディ・ホリーからジョン・レノン、エルヴィス・コステロ、そしてウィーザーのリヴァース・クオモに至る“眼鏡ロック”という伝統的な芸風みたいに感じて、気にならなくなりました。

“This Year's Model”は、ジ・アトラクションズのスカスカしてヒリヒリしたサウンドが、確かにパンクっぽく聴こえなくもないです。
年齢的にも、コステロはクラッシュのジョー・ストラマーとセックス・ピストルズのジョン・ライドンの間で同世代に当たります。
しかし純粋なパンクとして聴くと、ちょっと違う気もします。

コステロを聴くと、その当時の“パンク・ロック”という定義の混乱振りが伺えます。

This Years Model
Elvis Costello
Edsel
1993-10-01