私は三島由紀夫の小説が好きです。その独自の美的感覚に14歳の私は打ちのめされました。それはまるで、思春期の熱病のように私を襲い、そして去って行きました。『これこそが芸術なんだ』、と人生において初めて芸術について考えさせられました。三島由紀夫の小説を色彩に例えるなら、『朱色』でしょう。それだけ、『和』な耽美的美しさを、その文章から感じます。特に好きな小説は、『仮面の告白』と『憂国』ですね。『仮面の告白』は、『永いあいだ、私は自分が生まれたときの光景を見たことがあると言い張っていた』という出だしの一行からもうノックアウトされました。そして、その出だしから、同姓愛という異質の愛について綴られていきます。また、『憂国』の艶かしい性的描写と散り去る美しさは、禁断の美に感じました。しかし、この『憂国』は紛れもない傑作であると思ったものの、強いナショナリズムを感じ、三島由紀夫という熱病から醒めるきっかけになってしまいました。『憂国』は二・二六事件の事件当事者となった青年将校の一人を描いた小説ですが、最後に将校と妻が自決していく様子が破滅の美学のように描かれています。→続くe5251b14.jpg
続きを読む