アレックス・ターナーは2007年当時、新進気鋭のロック・バンド、アークティック・モンキーズのボーカリストでした。
その勢いは、凄まじく知名度は世界的に及びました。
アレックスの歌声はUSオルタナから影響を受けたパンチがある歌声で、歌とラップを掛け合わせたようなボーカル・スタイルでした。
一方、マイルズ・ケインは自身がリード・ギターを務めたリトル・フレイムズが、ファースト・アルバムをリリース前に分裂し、アルバムもお蔵入りとなります。
残ったメンバーで3ピースバンドのラスカルズを結成し、自らメイン・ボーカルを務めるようになったばかりでした。
マイルズの歌声は、キンクスのレイ・デイヴィスとジョン・レノンを合わせような典型的なUKロックなスタイルで、悲壮感と疾走感を合わせ持った曲を歌っていました。
この同い年21歳の2人の若者は、キャリアでは差が付いてしまいましたが、リトル・フレイムズがアークティック・モンキーズのオープニング・アクトを務めたことと、音楽の趣味が合うことで意気投合しました。
2人はルックスが似ていたことと、繊細な感性を持った青年であったことも共通点であったのです。
まずは、アークティック・モンキーズが2007年4月にリリースされたセカンド・アルバムで、マイルズが1曲だけ客演でギターを弾くことによって、2人の関係性が明らかになりました。
そして、2007年の8月から2人で構成されるユニットのアルバムの制作に入りました。
アレックスとマイルズが目指した音楽は、スコット・ウォーカー風のバロック・ポップでした。
そのレコーディングには、まず、ドラマー兼プロデューサーとしてジェームス・フォードを迎えました。
バロック・ポップとは、ロックにクラシック音楽の要素を融合した音楽です。
そのため、オーウェン・パレットをアレンジャー及びコンダクターとして迎え、ロンドン・メトロポリタン・オーケストラとレコーディングを進めました。
ユニット名は、The Last Shadow Puppets と命名されました。
2人は、お互いに持ち合う才能を補い合っている存在でした。
パンチがある歌声とカリスマ性、そして抜群の知名度を持っているはアレックスです。
情緒ある歌声と、個性的なギター・プレイが魅力があるのはマイルズです。
恐らく、成功するのか、どうか分からない状況ではあったと思いますが、
"The Age of the Understatement" とタイトルが付いたアルバムは、2人が目指していたスコット・ウォーカー風のバロック・ポップと、'00年代のインディ・ロックが融合した形で完成し、2008年4月21日にリリースされました。
結果的に、チャート・アクションとしては、UK1位を記録し、評論家筋からも絶賛され続けました。
ソングライティングとしては、ダークな曲調のアレックス色と、悲壮感漂うマイルズ色が適度にバランスが取れた佳曲が多く収録されました。
そして、何よりもアレックスとマイルズのハモりが、素晴らしい程に美しく、ロンドン・メトロポリタン・オーケストラが荘厳にアルバムを盛り上げました。
その後のプロモーションやライブ活動で、似たようなヘアスタイルとファッションの、繊細な2人の青年の姿は、まるでビートルズのジョン・レノンとポール・マッカートニーが、21世紀に再び舞い降りたように印象付けられました。
リリースされて9年、"The Age of the Understatement" は名盤と言われています。
The Last Shadow Puppetsとしての活動が終了した後は、アレックスは自身のバンド、
アークティック・モンキーズの音楽の幅を深め、よりメイン・ストリームな存在になり、誰もが知る大物ロック・バンドとして活動して行きました。
マイルズは、ソロ・アーティストとして成功しました。
2016年には、30代の大人の男性として、アレックスとマイルズ人は精悍な姿となり、
The Last Shadow Puppetsとしての活動を再開させました。
もはや、以前と違う大物2人のユニットとなってしまったThe Last Shadow Puppetsは、貫禄たっぷりの歌声を披露して行きます。
そう、もはやアレックスとマイルズは、繊細な2人の青年ではなくなったのです。